始まりは、ただ一滴のしずくの音でした。ぽつん、と一滴、水の音。なんだろうなとは思ったけれど気にもしませんでした。その夜 は雨が降っていたので、外の雨だれの音が近く聞こえたのだろうと思ったのです。
ところが翌朝になって、それは雨漏りの音だったとわかりました。朝から慌てふためく様子の母に「見て!」とうながされて玄関を見上げると、吹き抜けになった天井のちょうど角のところに大きなシミができています。その真下、玄関のタタキには小さな水たまりがありました。
当時の我が家は築20年を超えたところでしたが、今までこんなトラブルはありませんでした。初めての雨漏りです。何がどうなっているものか、様子を見ようと思っても、吹き抜けの天井にはどうがんばっても背が届きません。これは大変と、すぐに知り合いの工務店に電話をかけて見に来てもらいました。
地元の工務店に雨漏り修理を依頼
ベテランの職人さんが、大きな脚立を持ってやってきて、天井を丁寧に調べました。脚立から下りてくると不吉なことを言いました。
「これは、だいぶまずいですよ。シロアリかもしれません。どこから入ってきたのか探します。」
そして表にまわり、玄関まわりの柱と壁と屋根とをつぶさに見ていきました。シロアリの巣は、玄関ポーチの屋根を支えていた柱の1本にあるようでした。
「ここは大変なことになっているかもしれない、急いだ方がいいが、一人では難しい」ということになり、翌日、別の職人さんを連れて2人で来てくれました。危ないから近寄らないようにといわれ、私は家の中から様子を伺っていましたが、やがて職人さん2人の、ほとんど悲鳴のような呻くような声があがったので思わずドアを開けました。脚立にのぼって柱の表面をはがしていた職人さんが私に気づいて、
「見ます? すごいですよ」
と声をかけて指差したところは、食い尽くされた木造の柱がちぎれてばらばらになっており、かろうじて残っている下の方は、もう思い出したくもないほどの無数の蟻で埋め尽くされていました。
私はこの柱をコンクリートでできていると思い込んでいました。が、実はコンクリートに見せかけた木造の柱だったのです。安く上げるための手抜き仕事だと職人さんは言い放ちました。柱の内部はほぼ食い尽くされ、ポーチの屋根は今にも倒壊寸前でした。蟻は柱を伝って屋根にも侵入し、穴をあけて雨漏りになったということでした。
ぞっとするようなポーチの柱は今度こそしっかりとコンクリートで補修をし、屋根もふさぎ、天井のクロスをはりなおし、もちろんシロアリ駆除は徹底的に行いました。
それから数年が経ちますが、あれから一度も雨漏りはしていませんし、柱もしっかりとしています。いろいろとお金はかかりましたが、しっかりと対策をしてもらえたので問題ないようです。雨漏りに気づくかなければもっと悲惨なことになっていたでしょうし、あれくらいで済んでラッキーだったと今では思います。